東京から引越したら100万円―「移住支援金」の認知度を調べてみたら衝撃の事実が浮かび上がった
内閣府の旗振りにより政策推進され、2019年頃から各地の自治体で展開されている「移住支援金」という制度があるのをご存知でしょうか。「100万円」というわかりやすい数字で攻める力技施策です。
移住支援金ができた背景と実績
「移住支援金」は東京23区に住んでいる人が、2人以上世帯で地方に移住すると100万円、単身であっても60万円もらえる、という驚きの制度(※1)です。18歳までの子どもが一緒なら、さらに一人あたり100万円加算という大盤振る舞い。年々利用者は増えており、2023年度では3,542世帯、7,782人がこの制度を利用して地方移住したとのこと。
(※1)就労状況等の制限、細かなルールは自治体によって違います。こちらご参照→ 移住支援金のはなし/内閣官房・内閣府総合サイト地方創生
移住支援金の利用実績(全国)(図1)
(図1)地方創生移住支援事業 交付実績/内閣官房・内閣府総合サイト地方創生
移住支援金は、東京への人口一極集中の是正と、地方での雇用創出を後押しするためにつくられた制度です。少子高齢化と人手不足をなんとかしたい全国の自治体がせっせとこれを活用・アピールし、都会からのUターン者・Iターン者の呼び込みに勤しんでいますが、実際どれぐらい人々に知られている制度なのでしょうか?認知度をしっかり調べたデータが、インターネットには転がっていなかったので、この際と思いクラシノで調べてみました。
制度の対象となるのは、東京23区に在住しているか、23区内に通勤している人ですが、今回の調査は東京都在住者に限定しました(自治体によっては独自の事業として大阪等、東京以外の都市部からの移住でも支援金を出すケースもあります)。また、現在仕事をしている人(雇用形態問わず)のみを対象にしました。つまり主婦や学生は含んでいません。学生が卒業後、地方で就職する場合にも移住支援金の対象となることがありますが、弊社予算の兼ね合いにより今回はいったんはずしました。インターネットリサーチサービスを使って20~59歳までの1,986人から回答を得ました。
これが移住支援金の認知度だ
まず全体の認知度がこちら。
Q. 都道府県や市町村など自治体が実施する「移住支援金」を知っていますか?(図2)
全体では16%の人が「名称も、内容も知っている」と回答。31.3%の人が「名称は知っているが、内容は知らない」。残り半分の52.7%が「名称も、内容も知らない」という結果に(20~59歳の各世代はほぼ均等なn数で割り付けています)。東京で働く人々の半分ぐらいの人は、知っているか「なんか聞いたことあるかも」程度には認識していて、残りの半分の人は全く知らないようです。
これを、年代別に見てみたのがこちら。
年代別 移住支援金認知度(図3)
傾向は年代で大きく変わるものではないようですが、25~29歳の層では他より少しだけ「名称も、内容も知っている」と答えた人の割合が高めにでています。総務省が発表している人口移動報告(下記、図4)では、都道府県外転出者は20代で最も多く、この事象の反映かもしれません。また、年齢層が上がるごとに「名称は知っているが、内容は知らない」と曖昧な記憶を持つ人は多くなっています。歳を重ねるごとに、いろいろな知識や情報がごっちゃになっていくのでしょうか(笑)
住民基本台帳人口移動報告「他都道府県への転出者数(2024年)」(図4)
(図4)住民基本台帳人口移動報告2024年(令和6年)/総務省統計局
上のグラフで、都道府県外への転出の1回目の山、18歳つまり進学時点では「地方→首都圏」移動の割合が多いと想像します。2回目の山、22歳つまり就職時点から10年ほどはもっと激しく動いている。このタイミングは引き続き地方からの首都圏流出も多いでしょうが、実数としては「首都圏→地方」移動もそれなりに含まれてくるだろうと推察します。
話は戻って、移住支援金の認知度、さらに性別もかけあわせて見てみたのがこちら。
年代別・性別 移住支援金認知度(図5)
概ねどの年代でも男性のほうで認知度が高い傾向があるようです。先程の都道府県外転出者数(図4)で20代の移動が多いことは言及しましたが、性別ではどの年代においても男性のほうが多いんですね。このことと呼応しているように思われます。
ここでちょっと不思議なのは、35~39歳のみ、女性の方が高くなっていて、しかも階級前後の30~34歳女性や40~44歳女性の前後世代と比較しても妙に高いという点(5%水準で統計的に有意に高い)。妊娠・出産が最も多いのが30代前半だとして、30代後半は、職場復帰、子どもが大きくなってくる、2人目も…と女性のライフステージが最もてんやわんやしてくる頃合いなのでしょうか。つまり仕事や住居のことで、移住関心が高まって情報収集しているのか…。しかし、性別年代別に移住関心度を集計してみたら(記事後半の「年代別・性別 移住関心度」の(図12)をご参照)前後の年代の女性間で移住関心度の違いに差はあまりなかったのでこの説は却下。
クラシノ編集部でも自信を持って提案できる仮説が見つかっていないので、読者の皆様で何かお気づきのことがあればお知らせください。
雇用形態で、移住支援金の認知度が違う衝撃
次に、移住支援金の認知度を次は雇用形態別で集計してみました。
これがなかなかに衝撃的な結果なのです。
雇用形態別 移住支援金認知度(図6)
「会社員(正社員)」では20.6%と全体平均よりも高い認知度を示している一方、「会社員(契約・派遣社員)」や「パート・アルバイト」では、一桁台のかなり低い認知度です。この差は何故に生まれるのだろう…。ざわ…ときて、世帯年収別にも集計してみました。
移住関心度 × 移住支援金認知度(図7)
うぉ。世帯年収別では、400万円を境界にして移住支援金の認知度に倍ほどの違いがあります。
正社員に対し、職場が地方移住を推進しているんでしょうか。いや、そんなことは普通ないでしょう。支援金の対象条件となる就労状況が関係する…?確かに、移住支援金の対象となる条件で、移住元での就労状況について「雇用保険に入っていること」などがあるケースがあり、この場合非正規雇用の短期・短時間勤務などで雇用保険非加入の人たちが対象からあぶれてしまうケースは少なからず発生します。しかしそれは、自治体のホームページなどに書いてある難易度の高いお役所文書をよぉく読めばやっとわかることで(よぉく読んでもよくわからないことが多いのですが)、制度について知った後に「雇用保険入ってないとだめなのか」と気づくことはあっても、制度について知る前の状態で「知る可能性」に雇用形態が影響を与えることはまずないでしょう。
先に一瞬ふれましたが(30代後半女性で移住支援金認知度が妙に高い件)、移住への関心についても今回調査で聞いてみたので、それと移住支援金認知度の関係をみてみましょう。
移住関心度 × 移住支援金認知度(図8)
ものの見事に相関がでていますね。移住に関心が高ければ、移住支援金制度の認知度も高い、と。結果を見てしまえば、まあそらそうだ、となりますが。こんなにはっきり現れているのであれば、非正規雇用の人々においては、移住への関心度がそもそも低いということなのかもしれない。さっそくデータを確認してみると…
雇用形態別 移住関心度(図9)
おぉ、やはりそうだ。移住への関心が強い方から3つ目まで(関心度の1~3)の回答者割合を足し上げると、「会社員(正社員)」は25.4%であることに対し「会社員(契約社員・派遣社員)」や「パート・アルバイト」では8%台にとどまっています。非正規雇用の人々においては、移住に関心がある人が少ないようです。ついでに世帯年収別にも移住関心度を集計してみました。
世帯年収別 移住関心度(図10)
世帯年収では「200~300万円未満」の層で8.1%と移住関心が最も低く、400万円を超えた以降の層では、だいたい20%を超えている。ここでも400万円あたりに境界がある。不安定な雇用条件・低賃金で就労する人々の間では、移住への関心が低い様子が浮かび上がってきます。なぜなのでしょうか。裏はまったくとれていませんが、思いつく仮説をあげてみます。
- 東京の仕事の供給量が圧倒的に多いから(仕事が多いから)
- 東京は同じ仕事でも賃金が高く、生活コストを差し引いても、地方より手元に残るお金が多いから(事実がどうかでなく思い込みとして)
- 低所得であるほど、家族、友人、知人のサポートでサバイブしているから(地元から離れられない)
- 低所得であるほど、リスク回避的な行動をとりがちだから(またはとらざるを得ないから)
- 目先の引越代を思うと、移住なんぞ考えられぬ
社会構造的な根深い原因が重なり合っているということなのかもしれません。
皆様はどう思いますか?ぜひコメントをお寄せください。
結果的に女性不利の矛盾含み
移住支援金の対象者条件として就労に関するものがある点に先に触れました。移住前の東京での勤務で、雇用保険に加入していないと対象にならない場合があります。また、移住先で就労の受け皿となる地方企業には「無期雇用」で雇い入れることが条件になっていることが多く、つまりそこで募集されているのは正社員クラスの求人であることが多いでしょう。対する求職・移住する人もそのクラスの人々となる傾向があるでしょう。つまり、素手でいったら低所得・非正規雇用クラスの人々がおいてけぼりをくらう可能性がある。確かに「東京で非正規雇用に甘んじている人に、地方での正規雇用のチャンスを提供している」ともとれるんですが、さっき見たように非正規雇用・低賃金の人々の層では移住関心が低く閉じ込もり傾向がある。
末永く地域にとどまっていただかねば、行政も大枚をはたく意味がなくなります。都会で揉まれた即戦力人材を確保したい地方企業の思惑もわかります。そもそも移住に関心の高い中間層と、都会で経験を積んだキャリア人材を求める企業をマッチングさせるのだからちょうどいい、という構図もあります。しかしさらに思い至るのは、とくに非正規雇用においては女性の割合が高い現実(下、図11)がある以上、これはおしなべると男性有利・女性不利の制度ともいえます。
正規雇用労働者と非正規雇用労働者数の推移(図11)
(図11)男女共同参画白書 令和4年版より/内閣府男女共同参画局
若年女性人口の減少で「消滅可能性」の自治体が…などとやかましい議論があったり(※2)、とりわけ女性が地方に帰ってこない現実がある(※3)中で、ですよ。地方は子どもを産む若い女性に来て(帰って)いただきたいんじゃなかったっけ?この点でも矛盾を含む施策といえます。なにか工夫が必要でしょう。雇用保険加入の有無のルールを撤廃したり、しっかりとしたキャリアアップのサポートをセットにしたり、非正規雇用の人々や女性における認知度を高める工夫をしたり、といったような。(即戦力人材超重視なのであれば「プロフェッショナル人材事業」(※4)の政策もありますしね)
いや、政府だって馬鹿じゃないんだから考えているはずで、きっとそれを具体化しようとしていたのが、発表されてすぐ批判多すぎて撤回になった「結婚移住支援金」(※5)だったのかもしれません。多分違いますが。どんな罵声があがったのかは想像できますが。しかし、こんな、どう考えても物議かもしそうな、だけど結構直球でアグレッシブな企画を立てた官僚さんとはちょっと飲みにいきたい気がします。私がかけつけビール一杯目にまず聞いてみるのは「『批判上等!』の覚悟でやったったんちゃうかい、なんですぐ引っ込めよんじゃ(阿波弁・筆者徳島出身)」ですね。
(※2)“消滅する可能性がある”744自治体 全体の4割に 人口戦略会議/NHK
(※3)女性が来てくれない広島県―広島がざわつく「3年連続転出超過No.1」を深ぼるシリーズ/クワシーノ
(※5)結婚移住に支援金、事実上撤回 女性限定に批判相次ぐ―自見地方創生相/JIJI.COM
話がそれました。(図5)の、「年代別・性別 移住支援金認知度」をもう一度戻って見ていただきたいのですが20~24歳女性の層で、移住支援金について「名称も、内容も知らない」と答えた人が66.4%もおり、まったく知らない人が多いのも気になります(「名称も、名前も知っている」の認知度が低いわけでないのですが。要は知ってるか知ってないか、はっきり2極化している)。20~24歳女性では移住関心度は高いにもかかわらず(下、図12)、全く知らないという人が多いのはもったいないでしょう。
年代別・性別 移住関心度(図12)
さらに(図13)が示すように、他年代・性別層と比較して、20代前半女性は300万円未満の年収である割合が最も大きい。言い方はアレですが(いろんな方向に失礼があったらすみませんね)、彼女たちからすれば、(一般的には低めである地方の賃金といえど)移住支援金の対象企業が提供する無期雇用の求人は、ある程度まともな案件に映るかもしれません。この点は若い女性だけでなく、もちろん非正規雇用の就労者にも魅力だと思います。地方の活性化をしながら格差是正にも寄与するチャンスと思って、政府には事業のブラッシュアップをしていただきたいところです。
年代別・性別 世帯年収(図13)
しかしこれ(図13)見てると、なんだかなぁ…という気持ちになりますね。若い女性の立場にたてば、ただでさえ賃金が安いのに、さらに安い田舎になんか帰れるかっつーのという話ですよね。県内の男女の所得格差とその県からの女性流出には緩やかな相関関係があるらしい(※6)ので、まじでなんとかしよ、これ。東京一極集中がどうこうの前に、ほんと、男極集中なんとかしてくれいやっていう話でございますね。まあ男女格差が小さくなるとより少子化する可能性はありますけど。
(※6)女性の職業生活における活躍とマクロ経済(p.15)/内閣府女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム
ちなみに、移住関心が高いのは若い人なのに、若い人は年収が低い、でも年収は中間層以降まで上がってこないと移住関心が高くならない、というねじれがあるのもずっと気になっています。若い世代にもすでに分断があるのか、高年齢世代の年収が低め層の人がとりわけ移住に関心がないということなのか…。考えているうちに頭がこんがらがっていつも途中で寝てしまいます。
転職と移住
最後におまけ情報ですが、今回のアンケートでは転職への関心についても調べてみました。これもちょっと面白い結果がでていますのでご紹介します。転職の関心が強い人ほど、移住への関心が強い傾向が出ているのです。
移住関心度 × 転職関心度(図14)
つまり、転職関心度の高い人ほど移住支援金についての認知度も高い、という結果になります。
転職関心度 × 移住支援金認知度(図15)
転職検討者と移住検討者は、生息ゾーンがかぶっているのですね。
今回は以上です。
データや考察を見てお気づきのことがございましたらぜひコメントお寄せください。なにか考え違いがあったらすみません。ご指摘いただければ幸いです。
今回の調査データ、ご希望の方がおられましたらお送りいたします。ぜひクラシノまでお問い合わせください。
調査概要
調査方法:インターネットリサーチサービスfreeasyを利用
調査期間:2025年01月10日 ~ 2025年01月23日
調査対象:freeasyモニターにおいて、東京都在住の20~59歳。学生、専業主婦、無職を除く。
有効回答数(n):1,986人
(担当:阿部倫子)