広島県最少自治体「安芸太田町」 -役場全体の意識も変える移住促進の取り組み

 

各地の自治体の様々な取り組みを支援しているクラシノですが、今回は、広島県の安芸太田町の移住促進の取り組みについて、町の職員、佐々木さんと下川さんにお話を伺いました。過疎の進む広島県最少自治体の思い切った施策、デジタルマーケティングがもたらした町役場内意識の変化など、地方創生の前線の「今」をお届けいたします。


今回お話いただいた方

佐々木直さん
2004年安芸太田町役場入庁。現在は地域協働課 定住推進係・係長。企画課を中心に、観光、教育委員会など様々な部署・業務を担当されるも常に「空き家」「移住促進」の課題にあたり、現在に至るまで安芸太田町のその取り組みを実行・牽引してきた。
 
下川ほのかさん
2016年安芸太田町役場入庁。地域協働課 定住推進係。広島市出身だが、安芸太田は親戚もおり、子供の頃からよく知る場所。町内外、様々な人々と接する機会の多い役場の業務にやりがいを感じるという、次世代を担う現場最前線。      


本題に入る前に軽く安芸太田町のご紹介を。広島県山県郡安芸太田町、人口は5,290人(2025年4月末日現在)。県全体で約270万の人口を擁する広島県下23の市町の中で、最少人口の自治体です。中国山地の深い山あい、四季折々の様々な表情を見せながら流れる碧く美しい太田川など、河川流域に自然環境豊かな集落が点在します。島根県との県境に接する「恐羅漢山」は広島県の最高峰であり、日本最南端の豪雪地帯の異名をとるという地理・気候。産業は農林業と観光業で、多分に漏れず、人口減少・少子高齢化が進む日本の典型的な過疎地域でもあります。そんな安芸太田町の最前線で、佐々木さんと下川さんはどんな取り組みをされてきたのでしょう…

10年前からいよいよやばく…今は正直、怖い

クラシノ:
佐々木さんは2004年から安芸太田町役場にお勤めで、もう20年を超すのですね。その当時から移住促進の取り組みがあったのでしょうか?

佐々木さん:
多少はありましたが、20年前は世間的にも今ほど人口減少が取沙汰されてはおらず、町としての動きもほとんどなかったと思います。もちろん人口減少自体はそれよりももっと前、安芸太田では昭和の後期からすでにあったわけですが。15年ほど前から、町としても積極的に取り組むようになりました。今現在は生活者としても目に見えて、これはいよいよやばいな…という状況です。小学生の人数が激減したり…。正直、怖いですね。地域社会の維持・存続をなんとかせんといけん、とあがいてやっているのが実情です。

総人口の推移

安芸太田町の総人口の推移(『安芸太田町人口ビジョン』から)

クラシノ:
安芸太田町は他の自治体に比べても空き家バンクの取り組みにかなり力を入れている印象があります。

佐々木さん:
「空き家バンク」は、制度としては20年前からあったものの、役場内でまだどこの部署でも本格的には手を付けられていませんでした。私は学生時代に安芸太田町を離れて町外で就職していたのですが、27歳で町に帰ろうと決心しまして。役場に勤務することが決まり、その時「人口を増やす」を自分の目標にしたんです。当初私は産業観光課にいたのですが、空き家バンクについては担当課が決まっていなかったので、埋もれていたこのテーマに取り組むことに決めました。
町外から安芸太田に移住してもらうにあたって、最大の課題はやはり住まい。途中に担当課の変遷もいろいろとありましたが、悪戦苦闘しながら歴代担当者のおかげで今の形におちついたという経緯です。

(クラシノ)ちなみに、現在安芸太田町役場のホームページでアクセスの多いページのNo.1が空き家バンクのページです。販売物件はもちろん賃貸物件も掲載されていて、さながら不動産サイトのような充実ぶり。広島山間部地域独特の様式である重厚な古民家も、バーチャルリアリティ映像でじっくり内覧でき、見ているだけでワクワクします。

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安芸太田町の空き家バンク(>>)

過疎地で賃貸住宅が、足りない!?

クラシノ:
やはり、住まいは大きなテーマなのですね。2024年度は、町営の一戸建て賃貸住宅(もりみんハイツ)も建設、入居者の募集を開始していますよね。どういう経緯で実現したのでしょうか。

佐々木さん:
実は賃貸住宅の需要は根強くて、ずっと供給が足りないという状況があったんです。
都会や、地方でも市街地にしか住んだことのない方にはピンとこないかもしれませんが、田舎の過疎地では「賃貸」で住めるところがなかなかないんです。民間の賃貸アパートも参入してもらえないのが現状で。

安芸太田を気に入って、「よし、暮らしてみよう」と思ったとして、いきなり家を買うとか、建てるとかはなかなかのハードルですよね。せっかく移住先として関心を持ってもらえても、住むところがなくて住めない、ということが頻繁におこる。

空き家はたくさんあるのに、と矛盾するように思えますよね。ただ空き家は所有者さんの意向もそれぞれですし、町がリノベ―ションなど手掛けて賃貸に持っていけるコンディションの物件を見つけるのにまず苦労します。町が主導権を持って確実に賃貸での住まいを提供するなら、これは建てるしかない、ということで実現したのが今回の戸建て住宅『もりみんハイツ』です。2023年から計画をはじめて、2024年に建設開始、2025年3月に20棟、完成しました。

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移住決定17人!狙い通りの手応えで「新しい世界」が見えた

クラシノ:
クラシノもお手伝いさせていただいた2022年の末ごろ実施した移住に関する意識調査でも、住居が見つかるかどうかは移住関心者の懸念点の最上位にありましたよね。そこから、実際に住宅を建設して、提供を開始、その住宅によりほんとうに移住者を獲得する、するという実行のスピード感には驚きました。

佐々木さん:
住まいが課題というのは、早い段階から認識していたので、急に動いたというわけでもないのですが、国の交付金が活用できることになったり、調査で見出した仮説も支えになりましたし、いろんなタイミングがピタッとはまった形です。情報発信という意味でも、クラシノさんにお願いするようになってデジタルマーケティングのノウハウを間近で見せてもらったから、『ああ、デジタルツールはこう使うのか』とか、そもそも『表現はこうしたほうがいいのか』などなど、しっかり手応えを感じながら活用方法が深く理解できるようになって。

建設までこぎつけた賃貸住宅という切り札を軸に、オンラインセミナーを企画して、それに向けてウェブ広告やLINEで集客する。そしてセミナーの参加者から本当に移住してくれる人を獲得することができました。現時点で17人の移住者の入居が決まっています。実世界の取り組みとデジタルの世界がつながり、新しい世界が見えたように感じます。akiota-member-01-1

若い世代の価値観は変わりつつある

クラシノ:
住まいの取り組み以外には、どんなことをされていますか?

下川さん:
婚活イベントに取り組んだこともあります。町内のグランピング施設を利用したイベントで、町内の男性と、町外の女性をマッチングできないかという趣旨の企画。これは町内男性から5~6人の応募があったところ、町外女性からはなんと20人以上も応募があって。おおお!となったんですが、翌年、だったら町内男性がもっと参加しやすい気軽なものにしよう、と「飲み会」のようなコンセプトにして開催したら、今度は逆に女性が全く集まらなくなって…なかなか簡単ではないですよね(苦笑)

クラシノ:
でもグランピング、というのは女性の集客効果が高いんですね。面白いですね。下川さんご自身、若い世代として安芸太田町をどうみていますか?

下川さん:
地方から流出してしまう若い人たち…というのはそれはしょうがないことだとは思うのですが、全員が都会に行きたいわけではないですよね。私も広島の中心部で勤務していた経験があるのですが、やはり田舎のほうが落ち着きます。

周りにも一度都会に出て、戻ってきている友人知人はけっこういるんですよ。戻ってきたいと思っている人も多い。最近の若い人はとくに、そういう価値観の人が多くなっている気がします。そんな田舎に関心度の高い若い人たちに来てもらい、住んでもらうために町が提供している「お試し体験住宅(※)」などはもっと気軽に利用できるものにしたいなと思います。
※ 安芸太田町「お試し体験住宅」(>>)

クラシノ:
仲間を増やす、みたいな感じですか?

下川さん:
どうでしょう(笑)でも、もりみんハイツや空き家バンクのご案内をしている中で、町外の方の入居が決まって、そのことで移住者さんに感謝されたりもして、やりがいを感じています。

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地域おこし協力隊員からの提案が理解できなかったあの時…

クラシノ:
若い人に来てもらう方法として、地域おこし協力隊の取り組みもされていますよね。

佐々木さん:
そうですね。地域おこし協力隊としてこれまで安芸太田町に来ていただいた方は、通算で50人ぐらいでしょうか。そのうち大体6割、30人ほどは任期を終えられても町内に住み続けてくれています。ミッションとしては、林業、棚田の保全、特産物の祇園坊柿の生産支援など一次産業の手伝いをしてもらうケースが多いですね。あとは古い民家を改修して民泊を立ち上げる、といったプロジェクトも現在進行中です。

それと9年ほど前のことですが、デジタルでの情報発信をミッションとして来ていただいた隊員がいて。彼がぜひやりたい、ということでドローンにも一緒に取り組んだのですが、当時はまだドローンでの撮影は珍しいものでした。自治体で活用しているところもほとんど聞かなくて、最先端だったと思います。

その隊員は、もっとFacebook広告を活用したらどうだろう?SNSもやったらどうだろうって熱心に町に新しいことを提案してくれたんです。でも当時は、お願いしておいてなんなんですが、こちらのほうがまだピンときていなくて。デジタルと言えばホームページを作って、ドローンで撮った写真を載せて…そういう感じかな?という理解のレベルだったんです。それまでやったことのないことばかりだったから、戸惑いも多く。 

今思えば、情報発信は重要だよねといっておきながら、本当に発信すべき情報がなんなのかがわかっていなかった気がしますし、こちらも頑張ってはみたものの、彼の提案に十分に応えてあげられなかったなと反省しています。ただ、その経験があったから今につながっているのも確かで、デジタル環境がどんどん進化する中で、役場内での理解もじわじわと進んできました。

いよいよデジタルマーケティングに本格的に取り組んでいこうということで、クラシノさんにも入っていただいて移住促進の分野でやってきた流れですが、この数年は政策・施策と情報発信したい内容、効果的な方法、手に取るようにわかる反応と次の手へのフィードバック、これらがすべて噛み合った取り組みができるようになりました。このようなやり方は役場の他の活動においても応用できることなので、役場全体に非常に刺激になっていると思います。

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クラシノ:
皆さんが、移住促進について試行錯誤を重ねてこられた取り組みを垣間見ることができ、胸が熱くなりました。その流れの中に私たちも参加でき大変光栄です。それに、あらためて役場の仕事って面白そうだな、町を作る仕事すごいな、と佐々木さんと下川さんの職場環境がうらやましいような気持ちもいたしました。

佐々木さん:
下川さんの世代が、帰ってきやすい安芸太田町をどうつくるか、ですよね。役場の職員も定期的に募集しているので、気になる方がいたらぜひ役場のホームページをチェックしていただけましたら。就職相談会も開催しています。それに、安芸太田町は、なんといっても広島市内に通勤することも可能な距離なんですよ。広島市への通勤については補助金がありますので、活用してください。

クラシノ:
なるほど。つまり田舎暮らししながら都会の仕事もできる、みたいなことなのですね。それは最高なのでは!?

佐々木さん:
最高なのです!まずはぜひ安芸太田町公式LINEにお友だち登録してください(笑)

クラシノ:
ですね!今日はお忙しい中をお時間いただきましてありがとうございました。

安芸太田町 公式LINE(>>)


インタビュー・文 阿部倫子(クラシノ)

 

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